

この章では、管理会計全般について、地域金融機関にはどのような仕組みが相応しいのか、その全体像を5回に分けて概説します。
第1回目となる本稿は、「地域金融機関の特性と管理会計」について、地域金融機関が抱えている問題点とともに概説します。
管理会計における基本的な考え方は、大規模銀行においても、地域金融機関においても同じであり、整備すべき管理会計の柱が次の3本で構成されることは両者共通です。
| (1)スプレッド収益管理・ALM管理システム(粗利益管理) |
| 金利リスクの本部ALM部門への集中 |
| (2)新原価計算システム(ABCシステム) |
| 活動基準の原価を算出 |
| (3)信用リスク計量化システム |
| 的確な信用リスクの評価 |
この「三本柱」については、次回以降の「2.粗利益管理」、「3.ABCによる原価管理」、「4.信用リスク計量化による信用リスクの把握」および「5.債権ごとの与信プライシング」の項で詳細をご説明します。
本稿では、その前提となっている地域金融機関、その中でも特に小規模の地域金融機関が有する、以下の2つの特徴について説明を行います。
地域金融機関の中でも、特に規模の小さい地域金融機関(信用金庫、信用組合等)の管理会計をメガバンクと比較した場合に異なる点は、信用リスク管理の手法です。
[図:融資プライシングにおけるリスクとコスト]

信用リスクの計量化を精緻に行うためには信用リスクスコアリングモデルが必要であり、顧客の適正な財務諸表、倒産統計データが必要となります。最近ではCRD(中小企業信用リスク情報データベース)やCRITS(地銀協信用リスク情報統合システム)等 中小零細企業の倒産データベースも整備され、その計量化も容易になってきてはいますが、これらはあくまで過去の倒産データによる倒産確率に基づくものであり、顧客数の少ない中小金融機関においては大数の法則が働かず、必ずしも当てはまらないため、これらをそのまま採用することは危険です。また、小零細企業には、適正な財務諸表が整備されていない先が多く、信用リスクモデルによる倒産確率の算定が必ずしも正確に行えない場合もあります。
以上の理由から、地域金融機関の信用リスク管理は、いわゆる「リレーションシップバンキング1」を中心に行われてきたと言えます。リレーションシップによるリスク管理は、顧客密着による融資先との濃密な関係を形成し、これを通じて単に数値では測ることのできないリスクを捉えようというものです。具体的には、貸出先への訪問・面接等による業況の聴取、日常的観察による兆候の発見等により、信用リスクの悪化に迅速に対応しようとするものです。
しかしながら、こうした対応は必然的に借り手の質を見極めるために、高いエージェンシーコストを伴います。質の高い情報を集めれば信用コストは低下しますが、逆にリスクマネジメントにかかるコストが増加します。つまり、リスクとコストは相反する関係にあり、結果的に地域金融機関の比較的高い金利による中小企業への貸出は解消しないこととなります。
このように、小規模の金融機関においては、プライシング構成要素のうち、信用リスク管理にかかるコストのウェイトが非常に高いものと考えられます。
もちろん、地域金融機関の顧客にも中堅以上の企業が多数存在し、倒産確率データに基づく信用リスク管理は重要な部分を占めています。そのため、信用リスク管理はリスク計量によるいわゆるトランザクションバンキング2と、前述のリレーションシップバンキングの2つの手法が中心となるものと考えられます。トランザクションバンキングはリスク中心のプライシングを行い、リレーションシップバンキングはコスト中心のプライシングを行うという方針が妥当であると考えられます。
1 リレーションシップバンキング
正式にはリレーションシップ貸出(relationship lending)と呼ぶべきもので、Berger and Udell〔2002〕の説明では以下の通りです。
リレーションシップ貸出は、融資の可否・条件の決定に際して、対象企業の財務情報等のハード情報に加えて、代表者の性格や信頼度等のソフト情報に基づき判断を行うものです。そしてこのソフト情報は、融資対象企業と金融機関の間で、長い時間をかけて生産されるものであり、定量化や情報生産者以外への伝達が難しい情報でもあります。金融機関は日常の預金取引を通じて対象企業の経営をモニターできるほか、面談・訪問等により独占的な情報生産が可能となります。これらの情報は対象企業の財務諸表、担保、クレジットスコアを凌ぐ価値があるものであり、この手法により、貸出金利の低下、要求担保の減少等が実現するとしています。
2 トランザクションバンキング
比較的広く共有された情報をベースに、個々の貸出毎にその採算を見ながら、取引の諾否を決定する手法。
Berger and Udell〔2002〕では、トランザクションバンキングを「財務諸表に基づく貸出(Financial statement lending)」、「資産ベース貸出(asset-based lending)」、「クレジットスコアリング(credit scoring)」の3種類に分けています。