

今回は、金融機関におけるABCの考え方、仕組みなどを伝統的な原価計算システムと対比しながら解説を行います。
こちらについては、別ページ「製品情報〜ABCとは何か―活動基準原価計算の基礎」をご覧ください。
かつて大手銀行が盛んに導入していた、経費配賦式の原価計算(いわゆる「伝統的な原価計算システム」)が現状ではほとんど利用されなくなっている主な理由として、以下の4点が挙げられます。
金融機関の伝統的な原価計算システムでは、原価額を算出するまでのプロセスとして、経費を「梯子状」に何段階にも配賦するという複雑な処理(階梯式配賦法による原価計算)を行っています。
階梯式配賦法にて算出された原価額については、処理方法が複雑であるため、要因分析が難しく、「何を」「どのように」改善すれば原価額低減に繋がるかといった分析や判断を行うことが困難です。
営業店別の原価額では、各店の預金量、融資量、口座数といった「量」に応じて本部間接費が各営業店に配賦されることになります。
【例1.融資量(平残・末残)を配賦基準とする場合】
本部稟議を必要としない住宅ローンの取り扱いが多い営業店と、本部稟議の発生頻度が高い事業性融資の取り扱いが多い営業店が存在する場合、両店の融資量が同額であれば、本部審査部門の利用頻度に関係なく、両店には同額の本部審査部門経費が配賦されることになります。
顧客別の原価額についても「残高」を配賦基準とすると、「残高の多い顧客」に、より多くの経費が配賦されます。
【例2.預金量(平残・末残)を配賦基準とする場合】
預金残高は少ないが、入・出金が繰り返されている取引量の多い口座を持つ顧客よりも、取引は殆どないが預金残高の多い口座を持つ顧客の方に、より多くの経費が配賦されます。
以上のように、経費の押し付けといった色彩が強く、また、経費を配賦される営業店や顧客の側からみると、何故そうした配賦が行われるのかについての理由が分からないため、納得感が得られないという問題が生じます。
伝統的な原価計算システムは、基幹系のメインフレームを使った大掛かりなシステムとして構築されていることに加え、階梯式による経費の配賦処理は、複雑かつ固定的であるため、ユーザー部署(企画部署)では、以下の点についての対応が困難です。
1.組織変更や新商品・新チャネルの追加
2.単価の見直し・更新
3.配賦処理ロジックの修正・変更
こうした場合には、システム開発部署に修正・変更を依頼することになりますが、本システムの修正・変更対応は時間や費用負担が大きく、またシステム開発部署は他の優先順位の高い作業に追われていて、原価計算システムの変更対応までは、なかなか手が回らないというのが多くの金融機関における実情です。
伝統的な原価計算システムを導入した銀行では、それ以前より稼動していた事務量システムのデータを利用する形でシステム構築が行われていました。事務量システムは、主として営業店におけるテラーや後方担当が行う現業の事務に関する分析を行うためのシステムであるため、この部分については非常に詳細な原価計算が実施されることになりました。
一方、事務量システムでカバーしてはいないが、実際には高コストとなっている渉外業務や本部業務については、前述(2)のとおり、融資残高などの「量」を基準として経費配賦が行われる形となりました。また、事務量システムも汎用機を利用して構築されたため、伝統的な原価計算システムと同様、硬直的でメンテナンスが必ずしも行き届かないまま放置されがちでした。
さらに投資信託や保険などの新商品の取り扱いに関しては、預金事務や融資事務とは事務フローが異なり、顧客への説明等に時間を要するため、事務量システムのメンテナンスが行われていない場合、伝統的な原価計算システムではそのコストを正確に算出することは困難です。
ABCは、(a)経費を活動(業務)に割り当てることにより活動コストを算出し、(b)算出した活動コストを、その活動の利用度合(利用頻度)に応じて原価額を計算する対象(営業店や顧客など)に割り当てる仕組みであるため、より的確にコスト(原価)を把握することができます。
配賦基準の妥当性からも、営業店や顧客などの現場における納得性は高いです。また、ABCは、コスト構造分析(要因分析)が可能であるため、経営の意思決定に有用なコスト情報を提供することができる手法であると言えます。
そのうえ、パソコン上のソフトウェアにて計算処理が可能で、ユーザー部署(企画部署)において、組織変更や業務の変化に柔軟に対応することができます。また、新商品が開発された場合も、その販売に要する費用(活動コスト・プロセスコスト)を計測することによって、商品原価をより精緻に算出できるといった、伝統的な原価計算システムにはないメリットがあります。
金融機関は本部間接費の比率が高いため、間接費を「量」だけではなく、活動を基準として、より精緻に割り当てることで原価額を算出するABCの適用が有効であると考えられます。